プログラムの理事長挨拶文に誤りがありました。以下の通り差し替えますとともに謹んでお詫び申し上げます。
理事長ごあいさつ
近年、世界的に高齢者の増加が際立っており、我が国はそのトップを走っています。昨年の日本の総人口は1億2471万人で、前年に比べ82万人減少していますが、65歳以上の高齢者人口は3627万人と増加し、総人口に占める割合は29.1%で過去最高となっています。少し先の話ですが、 国の推計によると、2065年における日本の高齢者の割合は38.4%と推定されており、人口の4割が高齢者という事になります。その結果、加齢に伴う代表的な疾患である認知症をはじめ、各種の癌や糖尿病性腎硬化症や網膜症、動脈硬化、心冠状動脈疾患、脳血管障害、関節疾患、骨粗鬆症などが増加しています。老化に伴う個別疾患に対する治療は最近の認知症治療薬、レカネマブの様にそれなりに進歩していますが、根本的な治療は老化の機序を解明し、総合的に老化を抑える事に主眼を置く抗老化治療です。老化細胞の研究も進んでいます。老化細胞はただ静かに死んでいくわけでは無く、炎症性サイトカイン、IL-1をはじめとする様々な液性因子(SASPと云います)を分泌し、周囲の正常細胞の機能を低下させ、臓器の機能を低下させることが分かってきました。つまり、老化細胞を素早く除去する事は周囲の正常細胞をSASPから守ることになり、臓器の機能の低下を防ぎ、正常に維持する上で大変重要です。この様な治療法はセノリシス(Senolysis)と呼ばれ、いかに素早く老化細胞を除去するかが研究され、それが可能になりつつあります。老年学(Gerontology)の名付け親はノーベル賞受賞者の免疫学者イリヤ・メチニコフ(1903年)ですが、老年学が科学として大きく発展する切っ掛けとなったのは、シンシア‣ケニオンの研究にあるといって良いでしょう。1993年のnatureに発表された論文で「インスリン受容体蛋白の主要構成遺伝子Daf-2を変異させた線虫(C エレガンス)が活発に活動しながら、寿命が2倍になる」ことの発見です。それまでの寿命延長の動物実験では低カロリー食や、低温での飼育で寿命の延長が認められていましたが、生命活動が抑制された状態での寿命延長ですので、本当の意味の寿命延長とは言えません。2万1000の遺伝子を持つ線虫の1個の遺伝子の塩基をふたつ変えるだけで健康寿命が2倍に延びたのです。その後、ショウジョウバエでも同じ遺伝子操作で寿命の延長がわかり、哺乳動物マウス、ラットでも実験が重ねられています。最近分かったことですが、老化細胞では細胞内のリソソーム膜に損傷が生じることで細胞内pHが低下しており、老化細胞がしぶとく生き残るためにグルタミン代謝酵素(GLS1)が活性化されています。この結果から老化細胞を除去する有力な手段としてGLS1阻害剤が有効であることが明らかになっています。老齢マウスや加齢関連疾患モデルマウスへのGLS1阻害剤の投与によって、さまざまな臓器・組織の加齢現象や老年病、生活習慣病が改善されることが示されています。つまり、老化細胞の代謝特異性を標的とした老化細胞の除去による新たな抗老化療法(セノリシス)の可能性があるという事です。近い将来、セノリシスによって大幅に健康寿命が延び、120歳まで健康に生きるのが普通の事になるかも知れません。